大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

静岡家庭裁判所沼津支部 昭和55年(少ハ)3号 決定 1980年12月20日

少年 T・Z(昭三五・六・八生)

主文

本件申請を棄却する。

理由

本件申請の要旨は、上記本人は昭和五四年一二月二五日当裁判所において少年院送致の決定を受けたもので、昭和五五年一二月二四日には収容期間満了となるが、出院を控えた時期に規律違反があつて今後更に規範意識の定着化、対人接触の態度などについて教育する必要があり、また帰住予定先の実父には監護力に不安があるので予後の万全を期するため、仮退院後の保護観察期間約三か月を含めて昭和五五年一二月二五日から昭和五六年六月二四日まで六か月間の収容継続を申請する、というのである。

よつて検討するに、本人は昭和五四年一二月二五日当裁判所で窃盗保護事件により特別少年院送致の決定を受けて久里浜少年院に収容され、満二〇歳に達した昭和五五年六月九日以降も少年院法一一条一項但書の院長権限により収容を継続されていたところ、同年一一月中旬ころから胃痛を訴え貧血及び体力低下の症状を示すようになり、同月二五日十二指陽潰瘍の疑いで関東医療少年院に移送され、現在同少年院に在院し、同年一二月二四日には上記送致後一年の期間が満了する予定である(なお、本件申請は右移送直前の同月二一日に久里浜少年院長よりなされたものであるが、このような場合、移送により右申請が取下げられたものとみなしあるいはこれが無効となるものとする明文の規定もなく、仮に移送先の少年院長が移送前の少年院長によりなされた収容継続申請を不当と思料するときは自己の権限により右申請を取下げることも可能であると解されるから、移送先の少年院長による申請の取下げがない限り、右申請は移送後もなお有効に維持されているものと解すべきである)。そこで、本人の処遇経過をみるに、まず久里浜少年院においては、一級上に進級後の昭和五五年一〇月末ころ同室の少年から食事の一部を喝食したため同年一一月上旬一〇日間の謹慎処分を受けたという事実はあるものの、そのほかには格別問題となるような行動も見受けられず、おおむね順調な経過を辿つてきたもので本件申請の一理由とされる上記喝食の行為も本人の強圧的性格や不良顕示性の徴表と評価すべきほどのものではない。また移送された関東医療少年院においても療養のため安静処遇の状態にあつてもとより問題行動はない。本人の病状は、今後さらに検査及び治療を要するものの当面手術を要する状況でなく、投薬の結果、前記潰瘍は瘢痕化して治癒に向かいつつあるので、医療少年院でなくとも自宅通院・自宅療養によることが可能である。次に、出院後の受入態勢についてみると、本人は父のもとに帰住すること及び型枠大工としての稼働先もすでに決まつている。肝臓病を患う父や執行猶予中の身である兄の保護力には多少懸念がないではないが、同居している父の内妻は本人の引取り保護に積極的姿勢を示し、兄も更生意欲が強く最近では安定した生活を送つているので本人の激励者としての役割も期待できること、他方、本人は出院すれば暫くの間は療養に専念せざるをえない身体状況であるから非行に陥るおそれも殆んどないこと、その他諸般の事情を考慮すると、すでに成人に達した本人につき出院後さらに保護観察を必要とする特別の事情が存するものとは認められない。従つて、本件申請は理由がなく、棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 中村謙二郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例